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20世紀と殺人鬼(2)

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sade

おそらくはサド、彼こそが、ヨーロッパ・ドラゴンが密かに隠しとおしてきた裏側、もしくは波間に沈めた尾っぽではなかったか?
サド発見をもって初めてヨーロッパ・ドラゴンは全容を現したのだ。
サド公爵の下に隠れ潜んでいた「嘘、悪、醜」の概念は、プリンス・モニーを得て、生き生きと胎動を開始、より巨大かつ強力なドラゴンとなって空へと浮上、空を泳ぎ始めたのだ。

あえて極論してみたい、むしろ真善美により近いものとして嘘悪醜の類を、置くべきもの、置かざるを得ないものではなかったか?
ホロコーストを思う時、防止策として、ふとそれを思う。

ドラゴン2章では、この連綿たる西欧哲学の具体化したものとしてナチス帝国をとらえ、その盟主ヒトラーが力説し、人々を魅了した「正義」という事象自体にも疑惑の目を向けている。正義とは何か?
ソクラテス以来、無傷のままに2500年を生き延びた真善美とは何なのか?

机上ではなく、実際の日常で、それらを他と分別して取り出せるのか?
真善美をそうでないものから取り出せるのかどうか。
愛の裏に死がはりついているように、善の裏には「悪」がはりついて、美の裏には「醜」がはりついて、そういう形で、同一のものとしてあるのではないだろうか?

私たちが、毎日の日常のなかで、「正義」を目ざすとどうするか?
すぐさま、それとは相反する殺害や抹殺の欲動が動き出すはずだ……いやまずは、それら「悪」が先にあるのかもしれない、
「悪」の発生と同時に私たちは、それらに善の衣装をつけ始め、こうして善への欲動が始動する……という流れではないか?
表裏一体のものとしての正義と殺害、また善と殺人があるのではないか?

ホロコーストとなると、ヒトラーという人物の特異性を言う場合が多いが、それにしては余りに多くの人が殺害に手を染めている。
正義への志向は、そのままユダヤ人殺害となって稼働したとみたほうがいい。

私たちの表面の意志とその裏にある実体。私たちはその実体を知ることができないままに、けれど結局はこの実体に引きずられて動いていく。
ドラゴンでは、発言者の自説はさておき、カタログ形式で自説に代わる各種の書物を引用紹介していくが、そのスタイルでいうなら、法然にいう「内心と外相」か?
『ドラゴン6章』に法然の選択集から引用している。

表向きの外面(外相)が善人なら、それは悪心を内部に隠したため、だから内側の心(内心)は、悪をいっぱい溜め込んでいる、との説。つまり善人なら腹の中は悪人。反対に悪人ならば裏側では善人となり、悪人は正機と論理が進む。

つまりこのあたり、悪人正機説の基盤となるかと思われるが、ここで問題。
悪人正機説は親鸞、それも親鸞の根本思想とされているもの。それを『ドラゴンintheSEA』では法然としている事への質問が多くあった。

「ドラゴン6章」、「親鸞は法然をひたすら崇拝して、法然の教えをまっすぐ追った人で、悪人正機説なども親鸞の説のようで、実は法然が言い出したこと。彼独自のものではないのです」、この部分だ。

悪人正機説と言えば、親鸞の弟子、唯円による「歎異抄」、「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」。
親鸞の言葉として記録され、親鸞思想の根本思想とされているもの。
だがこの同じ文言が、もっと早い時期に法然の言葉として「法然上人伝」に記録されているわけで、ここが発端。
こちらの作者は法然の高弟の中でも、法然最愛の弟子とされる源智。
梅原猛『法然の哀しみ』(小学館文庫)は、源智の書を見て、そのまま親鸞側が記録した、と推測している。その逆、弟子の言葉を先生が習う、ということはないので、この通りだろう。

歎異抄ではその解説、「たとへばひとを千人殺してんや……」のあたり。
こういう過激部分は親鸞ならではのもの。歎異抄によって、法然の悪人正機説が、命を得て現代に華々しく浮上したかと思われる。

千葉県佐貫町、神野寺には親鸞自身が滞在中に彫り上げたという親鸞像が残されているが、これはもうどこから見ても山賊の親分。目の玉ギョロリの親鸞で、いかにもいかにもこの面構えならではの発言と思えるのだが、そもそもの発端となる思念となるとどうだろうか、親鸞側の文書では、見つけることができなかった。

法然は逆。
先の選択集だけでなく、法語集にも悪人正機へとつながる言説は多い。

とはいえ、とんでもない教説である。悪人が正しい、悪人の方が正しいとなると、殺人鬼だの泥棒だのの方が正しい、となってしまう。
普通ではこういうセリフは、出てこないだろう。
両親をいわば悪人として惨殺された法然以外ではまず、発語されない言葉ではないだろうか。

なんとしても法然には悪人を成仏させる必要があった、悪人を「正機」とせねばならなかった……・法然とするならこれらすべてが無理なくおさまるのだ。
 
 
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Written by イガイガボン

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