「貝」吉田ゆき子

貝        吉田ゆき子

重いような
軽いような
サーモンピンクの
巻貝
てのひらサイズの
トゲトゲのある外側

吉田_巻貝_1

中は真っ暗
夜 でもなく
黒 でもなく
闇 でもなく

守りきれないほどに
柔らかな内臓を
くるんでいた
このトゲトゲたち
柔らかすぎて
とっくに人の腹の中か
鋭い嘴の腹の中
魚の腹の中
あまりに脆かった
この貝の内部
密かに波音をうけていた

貝を拾いに
カズサミナトへ
カランカランと
バケツ揺らして

吉田_巻貝_2

砂を払った手で
このこと知らせたく
「バケツにいろんな色の貝殻の音」
一枚の絵葉書
複雑な人間模様の
編みこまれない世界
人間暮らしの
内臓を見なくていい

帰ってゆきます
長靴も忘れずに

吉田_巻貝_3

中は真っ暗
夜 でもなく
黒 でもなく
闇 でもなく

飲み込んでゆく
ブクリ
ブクリ
バクリ
人間暮らしの
ハラワタの中へ

吉田_巻貝_4

第10回・詩劇『洪水伝説(稽古篇)』ポエーマンスを終えて

12月14日、支倉隆子 詩劇『洪水伝説(稽古篇)』、ポエーマンスの部にて
阿賀ほか、イガイガボンスタッフは「蟷螂型恋愛色模様」を客演したのだが、
直前になって主役の町娘を演じる十亀脩之介氏の都合がつかなくなり、騒動になってしまった。

八方手をつくしたが、12月は繁忙期、
簡単には踊り手が見つからず、大橋可也ダンサーズの総帥、可也氏の
必死の探索で男女2名のダンサーを確保したのが、公演1週間前。
それから虫役の吉田ゆき子氏などに協力を求め、練習を開始。

流石、可也氏推薦の熟練ダンサー、その腕前に安堵したのはいいが、
衣装一式が届かない。
カツラに刀にと、最善の衣装を取りそろえていたのだが、これまた動転、大騒ぎになった。

衣装一式は、十亀氏が保管していたのだが、発送していなかったのだった。
さらに宅急便側のミスまで絡み、
公演前夜の真夜中になっても荷物の所在が分からないという事態に。
午前2時、千葉は館山のイガイガボンメンバー高梨氏が、
宅配業者の送り状を探し出して所在確認となった。

かくて公演直前になんとかダンサーは衣装一式をキャッチしたわけだが、
朗読者の私は頭が混乱して、朗読ができない……
「落ち着いて落ち着いて、阿賀さん、大丈夫大丈夫……」と
虫役の戸沢タマ氏になだめられ、なんとかやっと歩行と言う有り様であった。

曲は、吉田兄弟の三味線曲3曲の合成。
編曲したのは、今は亡き絵画作家谷敏行。
彼は若旦那役でもあったため、全体を把握、
それはそれは、難しい構成で、これに朗読を合わせるのが至難の技。
生半可な練習では無茶苦茶になってしまうのだ。

実際のところ、朗読は六割方失敗に終わったのだが、舞踏が予想外の出来。
大変な迫力で、下手朗読をカバー、沢山の拍手をいただいた。

娘役は、長身明眸皓歯の若林淳氏。
独特のオーラを発しているとの感想もいただいた。
若旦那役は、川本裕子氏。
猫のように動く柔軟な肉体で、愛に狂って死へと驀進する男を熱演した。
「喜んで死ぬんですね。エクスタシーの表情がいりますね……」
と川本氏、何度も練習を繰り返したのだが、蟷螂型恋愛は、カマキリ方式。
雌がオスを食い殺して愛が成就するのだから、
死を歓喜のエクスタシーの極点として演じなければならない。  

出典は『ドラゴン in the Se』下巻の5章。
これはフロイトの快感原則を背景に『嵐が丘』の作者、
エミリ・ブロンテの禁断の恋を扱ったもの。
挿し絵は、以下。大きなカマキリは、エミリ・ブロンテを現している。
かなり怖い絵である。

ドラゴン5章・カマキリ&カエル
 
恋愛小説の最高峰『嵐が丘』の作者される
エミリ・ブロンテは人里離れた荒野の牧師館の娘。
一切の恋愛経験どころか周辺に男の陰さえなかった女性。
それがなぜ「愛」を書けたのか?

謎中の謎とされてきたのだが、
『ドラゴン in the Sea』では、恋人を兄、ブランウェル・ブロンテと特定。
恋の現場を周辺の荒野として、新説を展開している。
根拠は、エミリとアンの共作、生涯を通して書き進められた長い長い長編小説『ゴンダル』。
エミリーの死後、姉シャーロット・ブロンテは、大半を焼却している(なぜ焼却?)ので、
その残りでしかないのだが、この小説が大量のエミリ詩編を満載、
この一々を新たに読み直して、エミリの灼熱の恋を浮上させたのだ。

その大半を謎の詩編としての何世紀もの解釈を『ドラゴン in the Sea』はバッサリと捨て、
全てはエミリーの実体験からの詩編として、明確に解釈しなおした。

彼女は自身の恋のくまぐまを記録したかったのだ。
記録して自身で再読反芻、そういう形での恋を生きたのだ。

恋人ブランウェルは、恋多き男、私生児までなしているとの噂さえある。
もう戻っては来ない。かっての恋は忘れ果てている……

エミリの怒りと絶望は『ゴンダル』の女王A.G.A.の残酷な実子殺しとなって結実、
はたまた恋人を投獄し、死へと追いやる……という筋立てで、復讐を果たしていく。

そして恋人の残酷な獄死、まさにその時になって初めて愛に熱狂する女王A.G.A.……
彼女たちは蟷螂型恋愛を生きたのだ。
彼女たち?
そうエミリ自身もまた、自身の物語、ゴンダルを踏襲してしまうのだ。

第四回・詩の虚言朗読会『死(詩)の国』を終えて 2

12月、2つの朗読会に参加した。

12月6日参加は、山岡遊主催、第四回・詩の虚言朗読会『死(詩)の国』
まずは、山岡遊のゴソゴソと這い出て、挨拶代わりか太い声で、ガンガンと唸って開始。

参加朗読者には、下川敬明氏のように、流れるように美しい詩編も混じるが、
大半はどこか主宰の山岡モード。

破天荒で荒削り、グングンと強力に自身を押して行くのが特徴。

細田傳造氏、府川雅明氏など、「今」を切って、切り開いていくが、
切り方は正に野武士の軍刀、会場を爆笑させながらのおおらかな味でたのしませてくれる。
途中、短編映画も上演。バラエテイに富んで、退屈させない。
 

「目下は皆して保身保身で、何も言わない、何があっても見ないふり、山岡朗読会だけが違う。
バカのフリして、馬鹿を盾に何でもかんでも言いまくる、沖縄問題、東電災害……
何でもありの山岡朗読会、山岡さんって、ああ見えて賢いんですよ」

 
これは、山岡朗読会というと毎回参加、舞踏を熱演する十亀脩之介の意見。

さて我らイガイガボングループは、この舞踏家、十亀脩之介が奇怪なる飽食の姫君に扮して踊りまくる「猫姫」を7年ぶりに再演。
十亀が大柄、屈強強靱な身体を豪華絢爛たる姫様衣装に包んで登場。
まずは笑いを巻き起こし、猫又役の吉田ゆき子氏、猫七役の高梨浩二氏を従えて、
にぎやかな舞台となった。
 
『死(詩)の国』__001
写真は左から、十亀、吉田、高梨。
『死(詩)の国』_005
 
『死(詩)の国』_003
 
曲は津軽三味線の若手ナンバー1グループ「疾風」の『吹雪』から。
作曲の小山内薫が猫姫用に編曲。
元々は全編、吹雪の最中の刻々と変化する雪の有様を精妙に克明に写しとったもの。

病気治療で、津軽の病院に通院の時に吹雪に遭遇。
あまりの美しさに車窓に釘づけとなったことがある。
それがそのまま小山内薫の三味線曲となって蘇っているのに驚いて、言葉をつけた。

地を掘り返し、蹴り上げて、舞う雪の群、
全てを「白」で圧殺して、消し去っていく、北国の大自然……
繰り返して聞いているうちに、飽食の現代が雪の幻覚として舞いあがり、
空を駆けて行くのが見えてくる。
  
音楽CDは、『疾風』というタイトルで販売中。

もう1つは12月14日、支倉隆子主催、第10回・詩劇『洪水伝説(稽古篇)』内、ポエーマンスに客演。
山岡遊朗読会とは、対照的なコンセプトか?
 
次回に詳しく紹介したい。

第四回・詩の虚言朗読会『死(詩)の国』を終えて

2014年12月6日
第四回・詩の虚言朗読会『死(詩)の国』、無事終了いたしました。

朗読あり、映画鑑賞もあり、充実した内容の催しになりました。

当イガイガ・グループからは、舞踏の十亀、朗読の阿賀ほか、
猫又役で吉田ゆき子氏、猫七役で、高梨浩二氏が出演。
豪華絢爛の姫様衣装を乱舞させ、会場を華やかに盛り上げました。

『死(詩)の国』_003

『死(詩)の国』__002
 
編集中の新刊、画集『谷絵』では、
谷絵を巡っての白熱した議論を収録、
この朗読会にも共通する部分があり、
イガイガ・スタッフ内では山岡株が上昇中です。

『谷絵』表紙遍歴

絵の表紙は当初、ごく普通に谷作画のから作成した。

谷絵・旧表紙・山羊

一例として、この山羊を黒く彩色したものなど、
谷君らしく、かわいらしいものが多かった。
しかし、1年休憩したら、かわいらしさとは一変した表紙にすることになった。

表紙候補を2例。
1つは大壁画をそのまま掲載したもの。
もう1つは谷君の顔写真。壁画は縦2m、横3mくらい。

谷絵・旧表紙・壁画

これは、作者谷君が制作途中に入院。
詮方なく阿賀が続きを代作したもの。

ところが、この代作がどうもうまく行かない。
思い悩んで、作成中に2階の階段から転げ落ちるなど、ロクな事はなかった。

眼帯に「寿」とあるものだから、
阿賀にはお棺に男が入っているように見えた。
お棺に入って、周囲を菊花で敷き詰められて、
さあ出棺というときの姿だ。
で、そういうつもりで菊花を増やし制作した。

なぜ、うまく行かなかったのか。
原画の谷絵は、紙ではなく、一種ビニールシート風な
ツルツルしたものに描き付けられていたからだ。

たっぷりの墨をつけて、
乱暴に一気呵成に、殴り描き……といった風な描きかたで、
このマネができない。

墨はだらだら垂らしながらの絵で、その垂れた所がまた良かった。
ところが、この壁画は和紙、スイッと墨を吸い取ってしまう。
原画のすざまじいまでの迫力が出せずトコトン疲れてしまった。

でも誰もがこれがいいという。
コピーに行ったセブンイレブンの美人店員さんも、

「これなんですか? 本の表紙ですか?
なにか惹かれます。できたら是非買いたい!」

 
彼女は横尾忠則のファンとか。
はるばる神戸の横尾美術館まで観に行ってるらしい、
で、こっちの作者はこれです……と
谷君顔写真入りの表紙例も見せてサービスしておいた。

谷絵・旧表紙・写真

実は顔写真など、画集の表紙に置くつもりはなかったのだけれど、
この写真、あまりに物議を醸したので、なにか、ここに謎というか、
ブラックホールというか、
そういう変なものが潜んでいるような気がして、捨て置けなくなったのだ。

「これ、誰ですか?」

 
まず、初めの感想はこれ。
中学以来の同級生柳田君まで、解らない。
誰もこれを谷君とは気付かなかったのだ。
いつもの谷君はこんな感じ。

谷写真・肩車

レッキとした3枚目。
ブチャムクレというか、全面壊れかかった写真も多い。
お人好し。真底の善人タイプ。
阿賀はこういうタイプは苦手。
まずは逃げるのだけれど職場や学校での写真の大半はこれだ。

どうしてこんなにかけ離れてしまうのか。

皆この表紙候補は、本当の谷君ではない、偽物というのだけれど、
ところが我が家のカメラには、先の表紙候補の写真のようなのが結構多い。
誰が撮ったのか?

先の表紙候補は、戸沢たま(戸沢英土)が撮影した。
以下は吉田ゆき子さんの撮影か?
数枚を連写、うち1枚は、苦み走って凄みがある。

谷写真・タバコ

菊男はこういう男でなきゃ描けない。
普通ではどうしても描けない。まるっかし描けなかったのだ。

偽物偽物と皆騒ぐが、
タバコで一服というときに、気取ったり、構えたりするだろうか?
こっちが本物ではなかったのか?

この本性を隠して、必死でいい子チャンを演じていたのではないか?
オモロイ、愉快な谷君を演じて疲れ果てていたのではないか?

次回新刊本は3冊。

次回新刊本は3冊。
内容はおおむね完成。表紙でもめている。

まずは詩集「ヤクザみたいに綺麗ね」の表紙。
ヤクザみたいに綺麗ね表紙案1

花は、ゴールデン・ピラミッドか?
いやひまわりの一種? 又はコスモスか?

撮影は軽井沢。
au携帯電話で撮影したが、写真データをPCに移せなかった。
付属ケーブルで移せるというので、買いにいったら在庫なし、取り寄せ。
auショップは多いが、決まって不親切。威張っている。

仕方なしにあちこち似た花をカメラで撮影した。
本のどこかに、この花の写真があればいいような気がしていたのだが、
余りに沢山送ったので、制作担当が表紙に使ってしまった。
実は、これはワイシャツの模様に使いたかった。

南太平洋、オーストラリア上空あたりだったか、
飛行機で同乗の男が、それはそれは見事なシャツを着ていた。
一人は白、総刺繍、繊細で実に見事な柄で、目が離せなかった。
もう一人は、花模様、黄花ではなかったが、美しかった。

男性は双方白髪。
顔つきが尋常ではなかった。
行儀が悪く、足を上に突き出していた。
マフィアの幹部か? とか思ってジロジロ眺めた。
それぞれに尋常ではない女性を同伴していた。
彼女たちがまた騒がしかった。

さて、
よく目をこらすと、花々の中に顔をつけた花が一輪ある。
もう1つの表紙案は、この花が主役。

第2案
ヤクザみたいに綺麗ね表紙案2

こちらの表紙は、以前に著者、阿賀が構想した案に少々手を加えたもの。

花はナデシコで、この花に顔を書き込んで切り絵にしたのは、絵画作家アヤラン。
原画は、ピンクの薄紙を背景に、白紙から切り抜いたこの奇妙な顔を貼り付けたもの。

制作時間5分とかからないが、自由が丘の「もみの木画廊」に出品。
定価3万とつけ、奥村真が購入した。ためつすがめつ眺めての購入。
奥村真とはこれが初対面だ。

本の構想は10数年前、
すぐ出版のつもりが、このタイトル「やくざ……」の文字、
また、内容が危険ということで、無期延期としていた。

今回もスタッフほか、関係者全員で点検したが、
タイトルについては、以下、吉田ゆき子氏の話にふと納得するものがあった。

「かなり酔っていたっしゃった時だったと思います。
何かのはずみに、吉原幸子先生が「私はヤクザだからね」とおっしゃったのを思い出しました。
それが何かとても印象的というか、忘れられません」

 
そういえば、彼女に似ている、よくよく似ている。
髪型もこういう短髪であったし。
そう思えば、奥村真にも似てはいないか?

奥村真といえば、福生の飲み屋でたまたま隣席に座ったヤクザに殺されてしまった。
いわばヤクザの被害者なのだが、かなり似ている。

どこか孤立している。なぜか集団に帰属出来ない。
それでも傲然としている……とか、一人で自信満々とかではなくて、
それで寂しくて、どこか神経まいってる……という風なところがある。

ただ、本編の主人公はやたら頑健な女性。
ニックネームがドラゴンZと言うのだから、
さびしそうなところは欠片も見えない……ちと変なタイトルと言えばそうだ。
だが彼女にも、どこかの隅っこに「ヤクザ」みたいなのが潜んでいるような気がするのだ。

話に出てきた奥村真には、
彼の生涯をたどって、詩編も解説入りで紹介したイガイガボン「ぬらり神」があるが、
最近「猩猩蠅」「繚乱の春はるかなりとも」の2冊が上梓された。
発行人は中井健人、みごとな編集である。
改めて奥村世界に浸っている。